大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所金沢支部 昭和42年(く)20号 決定

少年 T・S(昭二六・一一・二三生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、附添人弁護士田中清一の抗告申立書並びに抗告理由補充書記載のとおりであるから、これ等を引用する。

抗告趣意第一点(法令違反の主張)

所論は要するに、本件少年保護事件について

(一)  原裁判所の昭和四二年一一月二二日の審判期日に、少年の保護者の呼出しを欠いているので、その審判手続は少年審判規則二五条二項に違背し、

(二)  原裁判所の右審判期日は、家庭裁判所調査官の出席が無くして開かれ、その意見の陳述も無いので、その審判手続は同規則二八条二項、三〇条に違背し、

(三)  少年法二四条一項の決定の告知は、決定書を作成した後に、それに基いて言渡すべきであるのに、原決定の告知は決定書が作成されていない以前に言渡したものであるから同規則二条一項、三条一項に違背し、

(四)  原決定は少年院法二条二項を掲記してないので適条に誤りがあり、

右の各違背は、何れも原決定に影響を及ばす法令の違反であるから、原決定は取り消しを免れないと主張するにある。

よつて案ずるに

(一)については、少年審判規則一六条の二は、審判のための呼び出しは呼出し状の送達以外の相当と認める方法によつてすることができる旨規定しているところ、本件記録によれば、昭和四二年一一月二二日少年の附添人弁護士盛一銀二郎において、原裁判所に宛てて本件審判期日に少年の保護者を同行する旨の審判期日請書を提出しており、同審判期日には少年の保護者父T・M、母T・S子の両名が、右附添人と共に出席していることが認められるので、本件審判のための保護者の呼び出しは附添人を介してなされ、右保護者等に到達していたと推認される。そうであるとすれば、原裁判所は相当と認める方法により保護者の呼び出しをした上で、本件審判期日を開いたものであるから、原裁判所の審判手続きには所論の如き違法は存しない。

(二)については、同規則二八条二項は、家庭裁判所調査官は裁判官の許可を得た場合を除き、審判の席に出席しなければならない旨規定しているが、調査官の不出席に関する裁判官の許可には特別な方式は無く、口頭でもよいものであるから、本件について仮令その許可があつた旨の資料が記録中に見当らないとしても、調査官が裁判官の許可を受けずに欠席したものとは言い得ず、仮りに裁判官の許可が無いのに調査官が欠席したとしても、右の規定は訓示規定と解されるので、原決定の効力には影響を及ぼすものでは無い、又同規則三〇条が家庭裁判所調査官は、審判の席において、裁判官の許可を得て、意見を述べることができる旨規定しているのは、審判に出席した調査官の権能を示したものにすぎず、調査官が欠席して意見を述べなかつたとしても何等決定の効力に影響を及ぼすものとは解されない。

(三)については、同規則二条一項は、決定をするときは裁判官が決定書を作る旨規定しているので、決定をするには同条六項の例外規定のある場合を除いて決定書を作成することは必要ではあるが、同規則三条一項によれば、少年法二四条一項の決定を告知するには審判期日において言渡さねばならないと規定し、同規則第二条第六項は裁判官は相当と認めるときは決定を調書に記載させて決定書に代えることができると規定しているところであり、決定書は決定そのものでは無いことに鑑みると、所論の各規定よりは、必ずしも決定宣告前に決定書が作成されていなければならないことを前提とするものとは解されないので、本件について、仮りに少年に対する初等少年院送致決定の言渡し前に、決定書の作成がなされていなかつたとしても、それを以つて直ちに違法があるとはいえない。

(四)については、同規則三七条一項は少年法二四条一項三号の決定をするには送致すべき少年院の種類を指定すべき旨規定しているので、同条同項同号の決定には送致する少年院の種類を記載すれば足り、所論の少年院法二条二項の如きは、少年審判規則三六条にいう事実に適用すべき法令には当らず、必ずしも適示を必要とするものでは無いから、原決定には所論の如き適条上の不適法は存しない。

従つて原決定には所論の如き法令違反は存せず、論旨は採用出来ない。

抗告趣意第二点(事実誤認の主張)

所論は要するに、原決定は少年の要保護性を認めるに至つた基礎事実について重大な事実誤認があり、取消しを免れないと主張するにある。

所論に鑑み本件各記録を検討すると、少年は、石川県○○中学校長の照会回答書によれば同中学校に在学中、特に二年以後は怠慢で、行動、性格共に注意を要し、自主性、責任感、自省心が無く、自己の意思に反した時には祖母等にも暴力を振う等の反抗的行動が多かつたというものであり、原裁判所における医師島田昭三郎の医学的検診録によれば、無情性で、同情心欠乏、残忍性があり、羞恥心、名誉欠如が認められ、道徳的判断も不良で、問診に対してもフテブテしい態度が著しく、自己の犯した行為に対する反省、悔悟は認められないというものであり、少年鑑別所の鑑別結果によれば、性格特性は非社交的、自主性乏しく、従属的であるが、攻撃性が抑圧されており、非常に強い自我感情を持ち、協調性を欠き、気分易変等の傾向があり、固執性、凝り性にして精神病質の疑いがあり、罪業感は乏しく、衝動的で烈しい行動をする虞れがあるというものであり少年調査官の調査票によれば、無口、無躾、ヤクザ気味もみえ、正直さはみられず、強情で、図太く、再犯の憂いが大いに窺われ、責任感、罪障感に乏しいというものであり、これ等の各報告内容および本件犯罪自体に対する証拠資料を通じて認められるところの少年の性格を総合すると、原決定書が掲げた処分理由の基礎事実を概ね認めることができ、弁護人の主張中、右認定に反する部分は、これを認めるに足りる証拠資料は無く、原決定には決定に影響を及ぼす重大な事実の誤認は存しない。論旨は採用出来ない。

抗告趣意第三点(処分不当の主張)

所論は要するに、少年を初等少年院に送致する旨言渡した原決定の処分は著しく不当であるから、原決定は取り消されるべきであると主張するにある。

しかしながら、抗告趣意第二点において判断した少年の性格等並びに、記録によつて認められる本件犯行の態様、少年の環境等に、何れも少年に対し収容保護による矯正教育の必要があるとする旨の家庭裁判所調査官、少年鑑別所、医師の処遇に対する意見をも加味して考察すると、少年を初等少年院に送致して、その矯正をしようとした原決定の処分は一応止むを得ないものであると認められ、抗告人の主張する事由の内肯認出来るものを少年の有利に斟酌しても、尚右処分には所論の如き著しい不当があるものとは認められない。論旨は採用できない。

よつて、本件抗告はその理由が無いので少年法三三条一項、少年審判規則五〇条に則り、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小山市次 裁判官 斎藤寿 裁判官 河合長志)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例